【 第7話 おじさんとの出会い 】
27Km過ぎ、僕はまた一人になった。
ここからが本当の勝負だ。
さぁ、頑張るぞ!
と気持ちは思っているが、足の痛みと疲れから、
もう僕のスピードはキロ10分前後のスピードしか
出なくなっていた。
もはや歩いている人と同じスピードで僕は走っていたのだ。
それでも、僕は歩かない、意地でも歩かないと
自分に言い聞かせ、走り続けた。
歩いている人と同じスピードで。
なんとか給水でSOYJOYやパワージェルを
飲みながら走り続けた。
そうして、28Kmを過ぎた。
“HAWAI KAI”の住宅地を
走っているときの出来事であった。
「イマムラサン!」見知らぬ人が声をかけてきた。
胸に“小田急”と書いた見た目が60歳を過ぎた方だ。
僕は走っていたが、おじさんは歩きながら話しかけてきた。
「どうして僕の名前を?」
と不思議に思い、僕は問いかけた。
「いや〜、背中に面白いことを書いているじゃないか。
そんな面白いことを書くのは日本人しかいないと思い、
声をかけたよ。NOW Villageなんて、
なかなか自分の名前をそのように書けないぞ」
と理由をかたった。
「ありがとうございます。」
と僕は答えた。
「お一人なんですか」
「いや、13名くらい集めてきたんだが、
フリーウェイでみんな私の逆車線を走って行ったよ。
私は6時間30分くらいで完走しようと思っているんだ」
おじさんは話を続けた
「ところでなぜ君は走っているのかね。
もう歩いたほうが楽だし早いよ」
意固地になって歩く速さで走り続ける僕に問いかけた。
僕は
「いや、なんとしても走り続けるんです!」
と主張した。
すると
「いや、走り続けるのもいいよ。見てごらん、あの老婆を。
あの人はずっとゆっくりのペースで走っているけど、
歩きはしない。あの年で挑戦しようとする勇気と
自分のペースを守りきるということに敬意を表しなくては
ならない。君もそうだが、今回は頑張って走っている人が
多いね。素晴らしいことだよ。
いつもだとこのくらいの距離になるとみんな歩いているよ。」
目の前には軽く70歳を超えているだろうと
思われる老婆が走っていた。
おじさんは話を続けた
「ホノルルマラソンは走るだけの大会ではないのだよ。
歩いてもキロ10分、走ってもキロ9分程度、
ゴールしたときには、20分くらいしか差がつかない。
本当に走りたいのなら、日本の荒川マラソンだとかに
参加すればいい。
ホノルルでは、いろんな人が声援を送ってくれる。
そのことにも敬意を表しなければならない。
ほら、横をみてごらん。
チョコレートを配っている人がいるだろう。
あの人はマラソンを走ることはできないんだよ。
できないから僕らに声援を送り、チョコレートを配り、
このマラソン大会に参加している気分を味わっているのだよ。
だから彼らが配ってくれる物は、ありがたく頂戴して、
彼らにも敬意を表するのだよ。」
と行って歩いている足をそちらのほうに傾け、
たくさんのチョコをもらい、帰ってきた。
僕の分ももらってきてくれたようだ。
歩くような速さで走り続けている僕に
追いつくことは容易だった。
僕はチョコを頂いた。
「君はポーチには何をいれているかね。」
「僕はポーチの中には食べ物を中心に入れてきました」
「これは入れていないのかね」といって、
おじさんは氷砂糖をとりだした。
「これが一番エネルギーになる。
すぐにエネルギーにしたいときは飲み込んで、
継続して力を出したいときはなめているといい。
甘いものは力を与える。」
僕は「ありがとうございます」といい、
大量の氷砂糖をもらった。
早速、3粒一気に頂いた。
これまでSOYJOYなどを食べながら、
走り続けたが、一気に回復した気分になった。
その後も、いろんな話を60歳過ぎたおじさんと話し続けた。
そうして一人で黙々と走りたかった僕は
次第におじさんとの会話がウザく感じ始めた。
帰りのフリーウェイに差し掛かる手前、
30Km前の付近だったろうか。
僕はトイレに行くことを口実におじさんの元を去った。
勿論、トイレにも行ったのだが、
一人で走りたい僕にとって、おじさんは重みに感じた。
2007年12月26日
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